痛みの特徴から主訴を解決するやさしい診査・診断
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響から問題が大きくなったり,新たな問題が発生する可能性が高くなっているので十分な注意が必要である.このような場合には筋痛を伴うこともしばしばある.とくに痛みが発生した時期は出産直後であったことも,問題が長引いた理由の1つかもしれない. 大原則は,原因がはっきりするまでは不可逆的な治療を行わないことである.痛みの存在と疾患の存在に相関関係が必ずしもあるわけではないので,疾患の治療ばかりが行われているが,痛みに対しては配慮されていない症例である.患者の特性 他の人よりも細かなことが気になる人であり,日常的に上下の歯をぶつけ合っていることに気づいていることからも,家族(生まれたばかりの子ども),生活上の問題や心理的な状況から筋痛が引き起こされやすいタイプであると想像できる.実際に₇付近の痛みと₆₇付近の痛みは,交互に出現していると訴えているのであるが,顎位が安定しないことによる可能性もある.また朝起きたときに,「しっかり噛み締めていたなー」と感じることがあることを訴えている.ただし,顎運動などの機能時の疼痛は訴えていない.このタイプの非歯原性疼痛がある場合は,浸麻診でも疼痛がとれることはないので,鑑別を行うことができる.初診時の対応 まずは,歯原性の疼痛か非歯原性の疼痛かをチェアーサイドで確実に診断することで,患者に安心感を与えることが重要である.この症例では,麻酔診にて,自発痛などが消えていることを確認して患者を帰宅させた.痛みの診断までの考え方自発痛+誘発痛がない 通常,歯由来の疼痛の場合は,歯を刺激することで痛みが誘発されることが多いが,このケースは誘発痛がない.ズキズキ感じるようになってきたのは,ここ最近1か月である.歯が原因の場合,1か月自発痛が続くことはほとんど考えにくい.また,10か月もの間,痛みがとれていないわけであるから,痛みの診断が誤っているか,治療方法が誤っているのである.すでに慢性の痛みに移行しているため,痛痛閾値も低下していると考えられる.拍動性の痛み ₇の歯髄由来の拍動痛が原因であるとすると,かなり大量の歯髄が残存している必要がある.しかし,他院ですでに治療中で,麻酔なしで治療をしても痛みは感じないことからも,通常は治療中の歯の歯髄が原因とはなり得ない.もちろん,抜髄の難しい₇であるため,見逃し根管がないかどうかの確認は必要である.また根尖性歯周炎の場合であれば,打診などで刺激すると疼痛は増強するので,鑑別することができる.また触診により根尖部の圧痛を診査する,エックス線による透過像を確認することなどが必要であるが,いずれも検査結果は陰性であった.第5章 実践編188

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