成人矯正歯科治療
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56成人矯正歯科治療の可能性と限界5成人症例の選択基準適応症と加齢■亀田 晃治療目標と治療方法 『一般臨床における成人の歯科矯正』(Allan Schlossberg編,亀田晃,片野泰夫訳/医歯薬出版,1979年)のⅤの成人歯の移動の限界,第17章の成人の歯の移動における問題と危険性(Vandersall DC著)のなかで,「成長発育を追い風として利用できる成長発育途中の小児の矯正歯科治療と異なり,“成長発育という術者にとっての利益”を期待できない成人矯正歯科治療では,治療前,治療中,治療後にさまざまな問題と危険性を孕んでいる」と述べられている.そして患者さんに起因する問題と術者に起因する問題に分け論じている1. 「患者さんに起因する問題としては,患者さんを取り巻く社会的背景,患者の持つ病態生理学上の問題も含めた生物学的背景(インナービューティ:健康)である.術者に起因する問題としては,個々の患者さんに応じた矯正歯科上の診断治療方針の樹立能力と,それを実現できる治療技術の問題である」という.また「治療技術を持っていることと,すべての患者に行使すること(行使してよいかどうか)は別物である」とも述べている. 患者の持つインナービューティをCBCTなどで予め診断・提示する.その診断から,全体的本格的矯正歯科治療で行うか,部分的矯正歯科治療で行うか,治療期間や来院回数,来院間隔,必要な費用,矯正歯科治療単独でいけるのか,包括的矯正歯科治療にすべきかなどを検討する.またマニュアルどおりの矯正歯科治療(教科書どおりの矯正歯科治療)により治療目標を理想的に設定したアウタービューティ(審美)を追求した場合,患者のインナービューティをエイジングさせることがないのかなどを検討する3‐5,8. 場合によっては,許容範囲内での妥協的矯正歯科治療でアウタービューティとインナービューティの調和を図るべきか,またそうした方が患者のインナービューティの保全によいのかを決定する.患者の持つ病態生理学上の問題も含めた生物学的背景(インナービューティ)や社会的背景から,無理のない妥協できる治療目標と治療方法を選択し実施することが大切である.患者と術者がともに矯正歯科治療直後のみでなく,将来にわたってWIN-WINの関係にすることが成人の矯正歯科治療では大切になる.■成長発育途中の患者と成人患者の矯正歯科治療の相違 成長発育途中の患者では,治療結果に対して成長発育が単なる組織の修復を越えて多くの場合,プラスファクターとなり,それに機能と形態の調和が加味され比較的良好な状態となる1,2.それゆえ教科書的矯正歯科治療(マニュアルどおりの矯正治療)が効を奏する. 成人患者の場合は,成長という因子が利用できず,矯正歯科治療による骨吸収,歯肉の退縮,歯根の露出などに対する修復機転が遅れ,その間に歯周環境も悪化し将来の老化(エイジング)に結びつきやすい.それゆえ若年者とは異なるエビデンスを提示して診断・治

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