必ず習得しておきたい歯科医院のための救命救急処置
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48イザというとき慌てない!必ず習得しておきたい歯科医院のための救命救急処置 本章では,実際に起こっている歯科治療に関連した全身的偶発症について説明する.「どのような全身的偶発症が起こっているのか?」「どのくらいの割合で重症化するのか?」「死に至るような症例の原因は何なのか?」ということを確認する.歯科治療中に起こる全身的偶発症のうち異物の誤飲・誤嚥やアナフィラキシー,局所麻酔薬中毒は,重症化すると生命の危機に直結する.また,神経性ショックや過換気症候群は歯科治療中に発生しやすい代表的な全身的偶発症である.これらの全身的偶発症について,その症状,原因と予防法,対処法について解説する.はじめに歯科医院で起こる全身的偶発症どのような全身的偶発症が歯科治療中に起こっているのか? 2005年~2008年の4年間に発生した,全身的偶発症の種類と発生頻度を図1に示す1. 歯科治療に関連する全身的偶発症のうちもっとも高頻度にみられるのは,俗にデンタルショックとよばれる神経(原)性ショックである1~5.これは,血管迷走神経反射ともよばれ,歯科治療に対する恐怖,不安,興奮や痛み刺激によって交感神経が過度に刺激され,反射性に迷走神経の緊張が亢進して血圧や心拍数が低下してしまった状態である.歯科に限らず,医療機関では頻繁にみられる偶発症といわれている.神経性ショックと同様に,歯科治療に対する恐怖,不安,興奮やストレスは,過換気症候群を引き起こすこともある.過換気症候群では,精神的な要因による過度な呼吸によって血液中の二酸化炭素濃度が低下し,全身の硬直を起こしてしまうこともある.局所麻酔薬によるアレルギーや中毒,心臓などの循環器系疾患,脳血管疾患や気道閉塞などは,即座に重篤な症状を引き起こしかねないが,それ以外の偶発症でも,適切な対応ができなければ死に至る場合もあるので(図2),油断は禁物である. 歯科治療における全身的偶発症については,日本歯科麻酔学会が日本歯科医学会・日本歯科医師会と協力して,全国47都道府県歯科医師会の772郡市区歯科医師会を対象に実施している「歯科麻酔に関連した偶発症について」のアンケート調査が参考になる.詳細な調査結果は,日本歯科医師会雑誌にも掲載されているので参考にしていただきたい.

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