ひとつではない、噛める総義歯の姿
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88ケースプレゼンテーション1.本法が目指す義歯の概念 筆者は、故・河邊清治先生(以下、河邊氏とする)の院内技工を18年間経験した後、ラボを開設して約16年間の院外技工を行っている。河邊氏といえば、機能的咬座印象の開発者であり、現在日本の開業医の多くがこの印象法によって適合の良い義歯を作ることが可能となっている。筆者の義歯製作概念はこの河邊氏の考え方1~4に大きく影響されたものであり、ひとことでいえば、解剖学的指標を製作基準とした機能的な義歯製作ということになる。 筆者の技工テクニックの基本的な考え方や実際の操作は、河邊氏から教えていただいた技術を活用している。院内技工時代は、歯科医師の仕事と歯科技工士の仕事が分けられていて、河邊氏にしかできない仕事もあったと同時に、技工作業は共通のコンセプトをもった歯科医師の指示のもとで行われており、安定した技工作業を行うことができた。しかし、院外技工の立場からコンセプトの異なる歯科医師の指示によって行う技工操作では、個々の歯科医師の指示をそのまま反映させることになる。今回は、阿部二郎氏の指示のもとで行う初の義歯製作であり、阿部氏の企画意図を理解しつつ、試行錯誤しながらの作業となった。本題に入る前に、その点は読者にはご理解いただきたいと思う。 事実、院内技工に比べて外注技工は患者の情報が伝わりにくく、歯科医師側からの情報伝達がなければ、患者さんの悩みや苦しみを直接感じることが難しい。筆者は、もし、クライアント側の歯科医師から細かな指示が出されたのであれば、誠実に優しい気持ちで製作することができると感じている。長年歯科技工をしていても、患者から得られる情報を歯科医師が確実に伝えていただけるならば、作業はいっそうスムーズに進められるはずである。したがって、院外ラボとしての筆者の真の製作概念はクライアントである歯科医師の適確な情報提供によりさまざまな要求に応じられるものであり、以下の項目が筆者の現在の義歯製作コンセプトといえる。①解剖学的指標に基づいた基準値を設定した設計のもとに義歯を製作すること②チーム医療における調和を求めること(技術と技量の調和(バランス)③適確な情報提供により求められる要望に対してさまざまな対応が可能であること④義歯は患者の健康美の回復をともなう口腔機能回復装置であること⑤適正な技工テクニックと歯科材料においてバランスの良い選択をすること⑥患者のための歯科技工であること 以下、その一端をご紹介できれば幸いである。5解剖学的指標を製作基準とした機能的な義歯製作戸田 篤

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