歯科臨床イヤーノート
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12375SECTION 46101 SECTION4 医療面接 患者や家族が医学的知識を医療者と対等のレベルまで上げるのは現在のネット社会といえども不可能に近く,医学的知識における医療者の絶対的優位性はゆるがない.このような非対称的な関係性の変化を患者側に強く求めた場合には,患者は医療者に信頼感を抱けずに去っていくか,あるいは,医療者に合ったような(パターナリズムのような)患者のフリ(演技)をするようになるかであろう.むしろこの非対称な関係性の変化を患者側の努力に求める(もっとも患者はその必要を感じていないし,する気もない)よりも,もともと研鑽を積むことによって高い能力を持ち合わせているはずの医療者が患者個人に歩み寄ることで,その非対称的な関係性を変えるほうが効率的であり,論理的である. 昨今,患者の立場に立つ(なる)という言葉をよく見聞きするが,これは,決して医療者が患者の立場(視点)に立つ(なる)という文字どおりの意味合いではなく,これまでの医療者上位の関係(患者-医療者関係の非対称性)から対等の関係へ,また,「病気を診て人を診ない」という生物医学モデルから「病気を診て人を診る」という患者中心モデルへの転換を概念的に表していることにほかならないのである.2)医療面接での患者-歯科医師関係性の構築と強化に向けて(1)患者個人そして家族の尊重(敬)と自立(律)性(自己決定) 患者中心の医療は患者による自己決定を促すことを基調としており,患者というひとくくりのカテゴリーから患者個人や家族の尊重(敬)へ,さらに生活者としての患者個人や家族の尊重(敬)へとつなげることが求められる.このような患者中心モデルでの患者と医師の対等な関係構築や患者の自己決定については,古くからアイデンティティーを重んじ,対等な個人間での人間関係を作り上げるものとしてきた欧米社会では受け入れやすいであろう.しかし,個人と個人の関係性を対等よりも上下関係としてとらえ,すでに作られた関係社会に適応させようとする傾向の多いわが国では4),患者と医療者が協働して対等の関係を築き,患者個人が自己決定することを躊躇する場面も見受けられる.そのため,上下関係を求める依存型の患者に対しては,欧米よりも一層の医療者側の支援(支える)やアプローチが求められるのである. また,患者-医療者関係では,患者に過去の人間関係を無意識のうちに投影する転移(考え,行動,感情表現)が現れることがある.医療者には,それを患者が依存型のパターナリズム(父権主義)を求めているのだと錯覚しないための冷静な観察力が求められるし,このような現象は医療者にも逆転移として表れることもあるので,つねに意識下におく必要がある3). さて,超高齢化社会のわが国では米国における自立(律)型の患者中心モデルという視点のほかに,生活者中心モデルへという視点が必要ではないだろうか.社会からのニーズの高まりとともに増え続けている緩和ケアや療養所そして在宅ケアなどでは,個人中心から

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