口腔からウェルエイジング
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咽頭は空気の通る気道と食物・飲み物の通り道の交差する空間であることはChapter2 Part1で解説しました。この2つの通路が混線を起こし、食塊の一部が喉頭から気管に入ってしまうことを「誤ご嚥えん」と言います。読んで字のごとく、誤って嚥下をするということです。誤嚥の恐怖。誤嚥はなぜ起こる? お正月になるとお餅をのどに詰まらせて高齢の方が亡くなる、という悲しいニュースを耳にすることがあります。これは誤嚥によるものです。誤嚥はさまざまな原因によって起こります。たとえば咽頭、喉頭周囲の筋肉の機能が衰え、嚥下のタイミングが合わなくなってきた場合です。このタイミングのズレは筋肉を動かす指令を出す脳に何らかの機能の衰え、さまざまな問題が生じても起こります。また嚥下中枢のある延えんずい髄に問題がある場合は、嚥下反射自体が生じなくなる場合もあります。気管から肺に至る呼吸器は、本来、吸気のみが入るべき場所です。ここに食塊の一部、飲み物の一部などが入ってしまうと、それを除去することはできません(図1)。 Part6で解説した食道上下の括約筋の問題で、胃の内容物の一部が呼吸器に入ってしまうとさらに問題は深刻です。胃液は強い酸を含むからです。さて、どうなるか? これが本当に怖い「誤嚥性肺炎」をまねいてしまう可能性があるのです。医療が進歩した日本でも肺炎の死亡率は高く、年間10万人以上という統計もあります。この数字の中に誤嚥により発症した肺炎が少なからず含まれている可能性は否定できません。声門裂が閉じ、喉頭の蓋ふたが閉じる 喉頭の入り口には声帯ヒダがあります。喉頭の役割のひとつである「発声」が行われている場所です。ただもうひとつの重要な機能に気道を閉鎖するという機能があります。気管や肺にとって入ってはならないものが近寄るとグッと力をこめて声帯ヒダは閉鎖します。これは喉頭にある多くの小さな筋群の収縮により行われます。この事から喉頭のもうひとつの役割には「気管上部の括約筋としての役割」があるのです。 左右の声帯ヒダに囲まれた部位を声門裂と呼び、呼吸時に空気を吸うとき(吸気)は、後こうりん輪状じょう被ひ裂れつきん筋という筋肉の収縮によって開いています。嚥下時この状態では、もし何か食事の一部が転がってきたら気管に入ってしまいます(誤嚥)。そこで声帯周囲の筋の収縮によって、嚥下時にはギュッと声門裂は閉じます。 そして、喉頭には甲状軟骨で囲まれる喉頭の内部から突出する喉頭蓋という大きな軟骨が存在します。ちょうど“靴べら”のような形をしています。これが嚥下時、後方へ倒れ喉頭に蓋ふたをするのです(図2)。喉頭全体が前上方へ動いたのち、舌骨と喉頭をつなぐ筋が収縮し、さらに喉頭蓋を後ろに引く小さい筋の力も借りて一気に倒れます。喉頭蓋という言葉は「喉頭に蓋をする」というところから命名されました。まさしく誤嚥を防ぐ最後の砦とりでです。きちんと声門裂が閉じ、喉頭蓋が後方へ倒れ喉頭に蓋をする状態を「喉頭閉鎖」といいます。嚥下反射の瞬間4誤嚥を防ぐ最後の砦とりで:喉こうとう頭閉へい鎖さPart 844

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