1からはじめるインプラント治療
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138第13章 特講:歯科医師が患者さんに詫びるとき症例1のインプラント手術後に患者さんに送ったお詫び状〇〇さまインプラント手術でのお詫びとご報告平成15年6月22日 この1年、当院で治療をさせていただきありがとうございます。 さて、過日6月19日木曜日は、たいへんお疲れさまでした。 右上犬歯部は本来「永久歯の犬歯」が生えるべきところに「乳歯の犬歯」が根も短く残っている状態で、形態、位置に審美的、機能的にも良い状態ではありませんでした(このことは十分にご理解いただいていることと存じます)。 治療方法としてはこの「乳歯の犬歯」を抜いて、手前の歯と後ろの歯でつないで治す「ブリッジ法」や人工の根の「インプラント法」、あるいは「入れ歯」などの治療の選択方法がありました。それぞれに利点や欠点(リスク)があり、例えば欠点としては、ブリッジでは両隣の歯を削ること、インプラントであれば手術をともなうこと、入れ歯ではガタガタすることが挙げられます。これらの点をふまえて、今回は右の上の犬歯部ではインプラント方法を取り入れて治療を進めてきました。 19日木曜日は通法に従い、乳歯の犬歯を抜歯し、インプラント(人工の根)を埋入する手術を進めていきました。ところが、手術前に想定した以上に「骨の硬さが位置によって異なり」、つまりドリリング(穴を開けること)が軟らかい方向へずらされてしまい、理想的な位置への埋入が行えませんでした。できる限り、位置が理想的なところになるよう方向修正を試み、器具やインプラントそのもので修正をしましたが、最終的には近遠心的に1mm、頬舌的に2mm、ずれています(この状態でのレントゲン、口腔内写真などがございます)。 一般的にはこの程度の位置のずれは手術時での誤差範囲(外科手術での正確さ)内ですし、なんら問題にはなりません。20日土曜日の段階でも感染、炎症などの問題はまったくみられませんでした。また、骨との接合、炎症、感染などには問題はございませんが、〇〇さまの手術の最大の課題である「審美性の獲得」に影響を及ぼすことが懸念されます。もちろん、歯としての機能も大切ですが、それ以上に、前歯では「審美性」は重要な要素です。無論、どんなに完璧な手術とセラミックスでも「天然の歯」ではないので多少の形態や色、質感の違和感はございます。が、できる限り「天然の歯」に近い綺麗で美しい「インプラントの歯」を作らなければなりません。 現在、レントゲン、模型などから最終的なセラミックスが入った時の状況を想定し、形態、位置を配慮して審美性の状況をシミュレーションしています。この診断で問題がないことが確認されれば事なきを得るのですが、もし、審美性の獲得に大きな障害となるようであれば、大変申し訳ないのですが、今回のインプラント(人工の根)の除去も含めて再度手術の許可をいただきたくお願い申し上げます。 〇〇さまには、ご心配やご迷惑をお掛けし、たいへん申し訳なく思っております。そのことをふまえてご理解とご協力をお願い申し上げます。医療法人社団清貴会 小川歯科 天王洲インプラントセンター 歯学博士 小川勝久図13-7 症例1の患者に対するお詫び状の書面(実物より改変)。手術の5日後に患者へ提示した。治療に問題が生じた経緯、現在の状況の説明を正確に行い(黄色網かけ部分)、真摯に謝罪すること(赤色網かけ部分)が重要だと考える。

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