口腔外科治療 失敗回避のためのポイント47
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146第3部 口腔内処置編Ⅰ 緊急性は低い手術小帯異常は先天的なものと歯槽骨の吸収による後天的なものがあります.一般開業医の日常臨床でもしばしば遭遇し,外科的処置の必要性を感じたことがある方も多いと思います.小帯異常の手術は外傷や炎症と異なり,緊急性は低く,術前に十分検討したうえで計画的に行え,修正や追加手術が可能であるという特徴があります.小帯の手術は主に①小帯の中央部を切開する小帯切断術(frenotomy),②小帯をクサビ状に切離する小帯切除術(frenectomy),③VYplas-tyやZplastyなどの小帯形成(小帯延長)術などがありますが,②は比較的出血量も多くなり,③はある程度の口腔外科的修練を必要とし,慣れない場合には手術創が醜形になってしまうことで,後戻りの原因となる可能性があります.そこでここでは,一般開業医が日常臨床において安全に,早く,確実にできる症例の選択の仕方,手術法を説明していきます.Ⅱ 上唇小帯の手術1.適応上唇小帯の手術の適応となるのは,①ブラッシング時の疼痛や清掃性が悪く食物の停滞によるう蝕,歯周病の原因となる場合,②上顎中切歯間の空隙が側切歯萌出時にもまったく閉鎖傾向を示さない場合,③無歯顎で加齢とともに歯槽骨が吸収し相対的に高位付着となり補綴装置の維持安定の妨げになる場合です.2.時期正中離開が認められても上唇小帯は成長発育の過程で退縮するので,通常は乳歯列期には行いません.中切歯間に空隙がみられても犬歯が萌出するころまでに空隙が閉鎖する可能性もあります.しかし,犬歯が萌出した後でも正中離開が残った場合は矯正治療の適応となるため,切歯萌出時にもまったく空隙に閉鎖傾向が認められない場合は手術を行っても良いでしょう.年齢的には9〜10歳頃が目安となると思います(図3‒8‒1a).必要な解剖学的知識ですが,この部位にとくに注意を払うべき重要な組織はなく誤って筋層に深く切り込まないかぎり出血も多くありません.3.術式①小帯付着部歯肉側に切開線を設定します.②上唇を上方へ牽引し,小帯を緊張させます(図3‒8‒1b).③小帯付着部周囲の歯肉および上唇粘膜に浸潤麻酔を行います(図3‒8‒1c).麻酔は小帯自体に直接行ったり,過量に行うと小帯の変形をまねくので注意が必要です.④小帯の歯肉側を最深部(歯肉頬移行部)まで切Oral Operative Edition 8小帯の手術

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