口腔外科治療 失敗回避のためのポイント47
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25口腔解剖学はどこまで必要か第1部 術前編どの小手術を行う際には,舌側・口蓋側からの浸潤麻酔の追加が必要です.2.骨の厚み上顎では唇側・頬側の皮質骨は薄く,骨表面から歯根尖端までの距離も短いのに対し,下顎では前歯部で皮質骨が薄いものの,臼歯部ではかなり厚くなります.この点で臨床上問題となるのは,やはり下顎臼歯部における浸潤麻酔の奏効しにくさが1つ挙げられますが,これは前述したように,歯間乳頭部における多孔性を理解していれば対応できます.もう1つ,皮質骨の厚みで問題となるのは,骨の菲薄な部位における抜歯時の骨折です.皮質骨が薄くても,前歯部や小臼歯部で抜歯時の歯槽骨骨折が問題となることはあまりありませんが,下顎第三大臼歯抜去時には注意が必要です.下顎では臼歯部にいくほど,皮質骨が厚くなると述べましたが,下顎第三大臼歯舌側の皮質骨は例外です.解剖学的に,歯は本来歯槽部に植立するものですが,埋伏歯については,埋伏の状態が低位であるほど,下顎歯槽部から下顎枝部へとその主座が移ってきます.下顎枝部に位置する埋伏歯の歯根は舌側に位置することが多く,結果として舌側皮質骨はきわめて薄くなっていることが少なくありません(図1‒2‒2).このため,不適切な力が加わると舌側板を貫通し,歯根の迷入をきたすことになります.下顎枝部の解剖学的特徴を十分理解し,低位埋伏の第三大臼歯の抜去時には細心の注意が必要です.3.歯槽窩と歯根の関係歯槽窩と歯根の間には歯根膜空隙があります.この空隙が入口付近でやや広くなっている部位があります.この比較的広い間隙は,切歯・小臼歯部では主として近遠心壁に,大臼歯部では近遠心壁と頬側壁にみられることが多いとされます1.したがって,臼歯部の抜歯では近心頬側に,残根の抜歯では,主として隣接面の両端近くに挺子を入れるのが合理的ということになります.前歯歯槽部の唇側壁は薄く,ここに挺子を入れることはできません.一般に,前歯歯槽部唇側壁は舌側壁よりも薄く,かつ歯槽窩の軸は後上方から前下方に傾斜しています.したがって,鉗子抜歯をする場合には,鉗子をまず唇側へ動かしてから舌側へ振る,この操作を繰り返し最後に唇側へ倒しながら抜去することが合理的ということになります.図1‒2‒1 歯槽骨(骨の多孔性).下顎骨よりも上顎骨のほうが骨の多孔性が著明に認められる.図1‒2‒2 下顎第三大臼歯舌側皮質骨の菲薄化.第三大臼歯の埋伏歯根が舌寄りに存在し,舌側の皮質骨が菲薄化している.

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