口腔外科治療 失敗回避のためのポイント47
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24第1部 術前編Ⅰ なぜ解剖学的知識が必要なのか画像診断の発達は著しく,単純X線写真から断層写真,CT,MRIなど,さまざまな診断機器が開発され,臨床に応用されてきています.これらの機器は,病変の大きさや局在を確認するために有効ですが,それはすなわち,画像解析装置を用いて術前に解剖学的知識に基づく評価を行っているわけです.しかし,日常の歯科臨床では,デンタルやパノラマX線写真が主流であり,CTやMRIまで行うケースはそう多くありません.患者を診て,デンタルやパノラマ画像から適切な評価を下し,安全に治療を行いたいわけです.そこで重要となってくるのが解剖学的知識です1.ここでは,日常の歯科臨床で必要な解剖学的知識について概説します.Ⅱ 歯槽骨について1.多孔性歯や歯周組織を支配している神経への浸潤麻酔は,局所解剖学的な視点から,骨外壁の菲薄な部分や骨の多孔性の部分から局所麻酔液を注入することが有効と考えられ,骨壁の比較的薄い歯根端部に向けての根端注射が推奨される場合もあります2.ただし,口腔粘膜の痛点は歯肉頬移行部に著明で,付着歯肉部には比較的少なく,とくに歯間乳頭部ではもっとも少ないことが知られています.また,前歯部より遠心に移るほど痛点は減少傾向を示します.根端注射の刺入点を決める際にはこうした痛点の分布にも配慮する必要があります.骨壁の厚さ,骨の多孔性,そして痛点の分布などを考えると,根端注射における刺入は歯肉頬移行部よりもやや付着歯肉部寄りに求めるべきであり,むしろ,歯間乳頭部への刺入による浸潤麻酔が推奨される場合もあります3.また,上顎の歯槽骨は,唇側・頬側・口蓋側とも多孔性である一方,下顎では前歯部で歯槽骨壁の多孔性が認められるほかは緻密な皮質骨であり,小孔はほとんど認めません(図1‒2‒1).上顎に比べ,下顎の浸潤麻酔が効きにくいのはこのためです.下顎臼歯部で多孔性の部分は,歯槽上縁と歯槽中隔の部分だけです.したがって,下顎大臼歯部の場合,骨の多孔性を利用して浸潤麻酔を効かせるためには,歯間乳頭部より刺入して浸潤麻酔をすると効果的と考えられます.根端注射か歯間乳頭注射のいずれの方法を用いるにしても,解剖をよく理解し,少なくとも痛点の多い部位へ注射針を刺入する場合には,表面麻酔を併用するなどの工夫をするほうが良いでしょう.なお下顎大臼歯部で歯間乳頭注射でも奏効しない場合には,下顎孔伝達麻酔の併用も検討に値します.また,神経支配を考えると,抜歯なPreoperative Edition 2口腔解剖学はどこまで必要か

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