口腔外科ハンドマニュアル’12
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CURRENT PRINCIPLES OF DENTAL SURGERYChapter2146インプラント治療によって抜歯の適応基準は変わったのか?PRINCIPLE 現在,インプラント治療は長期維持・安定性が証明され,広く社会にその有用性が認知された.しかし,その高い有用性ゆえに,インプラント治療を前提とした抜歯適応基準が変化したといわれている.従来の抜歯基準を超え,戦略的抜歯,積極的介入などの言葉を拡大解釈し,初めからインプラント治療ありきの治療計画がなされ,天然歯が多数のインプラントに置き換わってしまっている症例をみる機会が増加している.はたして,インプラント治療によって,従来の抜歯適応基準は変わってよいのであろうか. 歯科医学の進歩により,従来,抜歯適応であった天然歯が保存可能となり,その歯の寿命が延びることが「進歩」としては一般的であり,理想的である.具体的には,コーンビームCTによる精度の高い診断,実体顕微鏡下による確実な歯内療法治療,再生医療を利用し歯の保存を計る歯周病治療などは,天然歯に確実な延命効果をもたらした.しかし,インプラント治療の確実性が向上したことにより,つまり歯科医療の進歩により,従来,抜歯の適応ではなかった歯を抜歯しなければならない負の方向に基準が改変されてしまうことは大きな矛盾が生ずる.これは,インプラント治療であるからこそ,このような不可解なことが生じてしまっていると考えられる. 口腔機能の面から,従来の義歯での治療とインプラント治療とを比較してみる(図1)と,インプラント治療が一般的となる前の従来の欠損補綴の治療では,抜歯後は義歯によって補綴を行うしか選択肢がなかった.抜歯によって,天然歯が失われ,当然,義歯では天然歯のときのような咀嚼機能は得られず,歯科医師も患者も歯の消失にともなう機能の低下は,いたしかたないものであると認識していたわけである.つまり,従来の義歯の治療計画は,義歯によって天然歯と同じような機能を目指すのではなく,口腔内から天然歯が少しずつ失われることに合わせ,機能の低下を少しでも補う努力を義歯によって継続するといった時間稼ぎを目指しており,最終的には天寿をまっとうするまでの消耗戦というパターンで治療が行われてきたものと考えられる.しかし,インプラント治療が欠損補綴の重要な手段となってか口腔外科手術の基本を知る矢島安朝東京歯科大学口腔インプラント学講座連絡先:〒261‐8502 千葉県千葉市美浜区真砂1‐2‐2Criteria and Technique of Tooth Extraction for Implant TreatmentYasutomo YajimaDepartment of Oral and Maxillofacial Implantology, Tokyo Dental College.address:1-2-2, Masago, Mihma-ku, Chiba-shi, Chiba 261-8502インプラント治療のための抜歯基準と抜歯法

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