歯列育形成の実際
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84 乳歯列期から継続管理および処置を行い、正しい永久歯列を形成させるためには、通常図Ⅳ-2のような手順となる。 乳歯列弓の形を整える この乳歯列弓の上下の位置関係を正しくする 萌出始めから正しい位置に配列する(標準経過態にする) 標準経過態以後も継続して管理処置を行う 乳歯列期からの継続は、プレートを生活習慣にいれて継続することによって行われる。プレートの継続については、Ⅳ章-2.開始時期とプレートの継続を参照されたい。 ほとんどの乳歯列弓は、形態を修正する必要がある。従来、正常乳歯列といわれていたその多くは、何らかの問題点を有している。治さなければならないのは、乳歯列弓の狭窄、V字形の乳歯列弓の形態、乳犬歯間に将来永久切歯配列するためのスペース不足、乳切歯部の前突、乳切歯部の舌側転位、乳切歯部の舌側傾斜、左右の歪、その他である。 標準乳歯列弓(図Ⅳ-1)を一応の目安として、各症例の乳歯列弓と比較する。標準乳歯列弓は、歯幅や顔面頭蓋全体の大きさなどの個人差は考慮されていないので、対象とする乳歯列の乳歯幅径が大きい場合は、標準乳歯列弓の歯列弓幅径の50mmよりも大きくしなければならない。 狭窄された乳歯列弓、あるいは空隙不足の乳歯列弓を側方拡大する最大の意義は、discrepancyを解消することにある(P38 Ⅰ章-4.-2)早期治療の生体に及ぼす意義、P52 Ⅱ章-1.乳歯列弓の形について)。 ほとんどの乳歯列弓は、側方拡大の必要があるものである。 乳歯列弓をよい形態にすれば、それに応じて次第に歯槽基底まで変化を与えることになり(P45)、さらには上下顎骨の体部までよい形態に発育する。これは歯列育形成を行っている幼小児の成長発育に伴って、骨の形成が行われるものであり、このことから成長発育期間のうちにできるだけ早い時期から乳歯列の形を整えたほうが効果が大きい。 側方拡大は、通常余分に行う。特に狭窄乳歯列弓は、側方拡大を多めに行ったほうがよい。 乳歯列弓の形については、(P52 Ⅱ章-1.乳歯列弓の形について)も参照されたい。最近は永久歯歯幅が大きくなってきているが、乳歯歯幅も大きくなってきている。そのためほとんどの症例は拡大された状態で比較することになる。標準乳歯列弓の乳歯列弓幅径を4~8mm拡大して比較することが多い。本来は現代に適応した標準乳歯列弓に修正すべきかもしれないが、著者らが過去30年これを使用した経緯もあり、歯列育形成研究会の全員のデータなどもこれに関わっているので、ただちに修正することができない状況になっている。近いうちに、これの対処を行う予定である。注意乳歯列弓の形を整える11234大きな流れ1歯列育形成の手順Ⅳ表Ⅳ-1 標準乳歯列弓(Standard arch)基準値。上 顎下 顎歯列弓の形歯 幅歯間空隙A 6.7B 5.5C 6.8D 7.3E 9.4A 4.3B 4.8C 5.9D 8.5E 10.4BA 間、 AB 間 0.9CB 間、 BC 間 1.8DC 間、 CD 間 0.4ED 間、 DE 間 0.0《空隙総和6.2》A A間、0.2(正中線まで0.1)BA 間、 AB 間 0.7CB 間、 BC 間 0.7DC 間、 CD 間 1.1ED 間、 DE 間 0.0《空隙総和5.2》乳歯列弓幅径a=50.0乳歯列弓長径t=28.5乳犬歯部歯列弓幅径k=36.5乳歯列弓幅径a′=46.5乳歯列弓長径t′=27.5t′a′tka(1.8)(0.4)(1.8)(0.4)(1.1)(0.7)(0.7)(0.2)(0.7)(0.7)(1.1)(0.9)(0.9)a=50.0 t=28.5k=36.5( )は歯間空隙単位はmma′=46.5 t′=27.5( )は歯間空隙単位はmm図Ⅳ-1 標準乳歯列弓(Standard arch)。 乳切歯と永久歯との歯幅の差(incisor liability)やリーウェイスペース、および乳歯列期・混合歯列期の(乳)歯列弓幅径の増加、乳歯列期の歯列弓長径の減少( の生理的近心移動分に含む)、混合歯列期の歯列弓長径の増加( の生理的近心移動を差し引いたもの)、下顎骨全体の前方発育などを考慮して定めた。標準乳歯列弓の状態であれば、スペース不足もそれほど大きくなく、歯列弓の形とそれによって形作られる歯槽基底も良好な状態である、という目安となる。 歯幅や顔面頭蓋全体の大きさなどの個人差は考慮されていないことに注意して、標準乳歯列弓と各症例の乳歯列弓とを比較する。あくまでも「目安」であるため、これだけではdiscrepancyの推定はできない。スペース不足の推定は、乳歯列の空隙のほかパノラマエックス線像と近親の口腔内の状態からも行う。ここでこの推定は、乳歯列期では残された成長量が多いので、おおまかなものでよい。たとえば、discrepancyが「著しく大きい」、「大きい」、「やや大きい」、「少ない」、「ほとんどない」といった推定でも十分に歯列育形成は開始できる。その理由は、永久歯切歯萌出始めから数回にわたり修正できるからである。ある程度の数値はパノラマエックス線像からも推定できる。単位:mm

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