最新 リンガルストレートワイヤー法
1/8

10第1章 リンガルストレートワイヤー法の歴史 舌側マルチブラケットシステムの歴史は、1970年代に藤田がマッシュルームアーチを用いたフジタメソッドを開発したことに始まる1‐7。1981年には藤田がマッシュルームアーチの特許を取得した。その後、他の矯正家により多くの舌側装置が考案され、’80年代にはオームコ カーツアプライアンス8‐10、ユニテック ケリーブラケット11、クリークモアアプライアンス12などが開発された。しかし基本の治療法としては今日までマッシュルームアーチフォームが長年用いられてきている(図1‐1)。 マッシュルームアーチの形態は、犬歯‐小臼歯間および小臼歯‐大臼歯間の唇頬舌の厚み(イン・アウト)の差によって決められる。特に、犬歯‐小臼歯間のイン・アウトの差は非常に大きく、アーチフォームがマッシュルームに似ていたことから命名されたようだ。著者も1983年より舌側マルチブラケットシステムによる治療を開始し、当初はフジタメソッドを主に使用していた。その後、バイトプレーンの付与されたカーツアプライアンスを’90年代まで使用した。その間、バイオメカニクスの研究13‐15やシステム全体の改良により、以前に比べ治療法、治療期間や治療結果がより改善されていったことは実感していた。 しかし、長年マッシュルームアーチを用いた治療法を経験したなか、ディテーリング時に多くの複雑なベンドが必要であることも事実であった。特に、犬歯‐小臼歯間のインセットは、水平的な1stオーダーベンドのみならず垂直的なステップベンドを付与しなければならなかった。そのため前歯部をスライディングメカニクスにてリトラクションする際、ワイヤーへの複数のインセットベンドによって、ブラケットとインセットが当たってしまい、改めて新しいワイヤーを曲げなおすこともあり、診察時間が伸びてしまうことが度々あった。また、上下歯列弓の形態を変えたい時に注意深く曲げないとうまくコーディネートできないなど、多くの問題点を抱えていた(図1‐2a~c)。 このような点から、マッシュルームアーチを用いた舌側マルチブラケットシステムは、熟練した者としていない者の差が非常に大きなテクニックであるといえる。著者のオフィスでも各々の術者のスキルの差により、治療結果に差が表れていることを長年危惧していた。そこで、なるべく治療のシステムを標準化し、シンプルなワイヤー形態で治療ができないものかと長い間思案してきた。特に犬歯‐小臼歯間のインセットを取り除き、プレーンアーチフォームを用いることができれば、上下アーチのコーディネーションもより容易になり、スライディングメカニクスも使用しやすくなるなど、多くの利点が生まれると考えた(図1‐3)。 そこで著者らは、1996年より複雑なワイヤーベンドをなくしたプレーンアーチを用いた舌側マルチブラケットシステムについての研究を開始した16,17。はじめに模型上の臨床歯冠を全部削合したところ、舌側歯面の形態がほぼ移行的であり、特にイン・アウトの大きい上顎犬歯‐小臼歯間でも大きなインセットはほぼ不要となることがわかった(図1‐4)。 次に、切端より2mmと3mmの高さで歯冠を削合した模型を比較したところ、削合面が歯頸部に近づくほど犬歯‐第一小臼歯間のイン・アウトの差は小さくなることがわかった(図1‐5、6)。 さらに研究を進め、ワイヤーがどの位置を通過す図1‐1 藤田先生が取得したマッシュルームアーチフォームの特許。リンガルストレートワイヤー法の歴史1

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です