歯科におけるしびれと痛みの臨床
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172 はじめに 智歯の抜歯は歯科臨床において多く行われているが,とくに下顎の智歯の歯根と下歯槽神経血管束が走行している下顎管とは近接していることが多く,またその舌側には舌神経が走行している.このために,下顎智歯の抜歯に際して,これらの神経に障害を与える事例がたびたび起こり問題となっている.これらのトラブルを未然に防ぐためには,どのような点に注意して,どのような手順を踏めばよいのだろうか.以下に挙げた項目の順に述べる.1)解剖学的位置関係の確認2)説明と同意(抜歯の必要性,後遺障害の可能性)3)予防─適切な抜歯操作の修得1智歯と下顎管の解剖学的位置関係の確認1触診 視診,触診は診療の基本であるが,画像診断の発達した今日,ついつい疎かになりがちである.術前に智歯周囲の組織を触診して外斜線や内斜線の走行,下顎枝の方向,舌側の骨の厚さ,第二大臼歯との位置関係などを確認,記録しておくことが重要で,手術時の粘膜骨膜弁の形成や骨除去,歯牙分割などについての大きな目安となる.2エックス線検査 智歯は形態や位置異常のバリエーションが多彩なので他の抜歯に比べてもエックス線検査は重要で不可欠ある.口内法のデンタルエックス線写真で写りきらないときには,パノラマエックス線写真を用いて埋入の状態や下顎管との二次元的な位置関係を確認する.さらに智歯と下顎管が近接してその位置関係をより微細に確認する必要がある場合には,CT撮影が有用である.3CT検査 CTは,智歯と下顎管の三次元的な位置関係を描出できることが特徴で,口内エックス線撮影やパノラマエックス線撮影ではわからない頬舌的な位置関係も詳細に検討することができる.また,3D画像を合成して立体的なイメージを示すことができる.さらに歯科用コーンビームCT(CBCT)を用いればより精密な画像を得ることができる(図1). これらをもとに下顎骨のなかでの智歯の萌出方向,埋入部位,下顎管の位置関係などを確認することができる. 橋爪ら1は,下顎智歯の抜歯後にオトガイ神経領域の異常感覚が生じた症例は,いずれも歯科用CBCTで歯根と下顎管の間に骨の介在を認めない例であったため,両者が骨を介さずに近接している場合には下顎管内容の損傷をきたしやすい,としている.Chapter 7予防とインフォームドコンセント髙野正行 武田孝之1智歯抜歯前の対応 (髙野正行)

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