常在菌との共存を考慮した 口腔粘膜疾患の診断・治療・管理
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 著者が所属した口腔外科の医局はとても温かく、そして患者に優しい医局だった印象がある。入局後、白衣のボタンをせずに横柄な態度で接するなと教わり、なるべく患者の目線より下から話すよう指導された。患者の環境を考えつつ治療方針を検討し、患者の気持ちを考えながら説明する。 また、著者が修行した鹿児島県大隅半島の総合病院には、半島の端から2時間かけて通院する患者もいた。その総合病院歯科口腔外科はマンパワーの問題があり、悪性腫瘍の症例などはさらに2時間以上かかる大学病院に診療を依頼していた。どの範囲まで自分たちで責任がとれるか、その患者が何歳まで治療を希望されるか、自院に連れて行く人がいるのか、認知症は大丈夫か、さまざまな問題をクリアしなければならなかった。二次医療機関(専門性のある病院)に相談したくても、行く手段がない患者はどのように解決すればよいだろうか。そのような開業歯科医が抱える問題を少しでも解決できるような書籍があればとずっと考えていた。 口腔がんの発生率は10万人に1人程度であるといわれているが、がん検診をすると約1,600人の健診で3人も見つかったとの報告がある。早期発見・早期治療のためにはがん検診が重要であることがよくわかる。しかしながら、患者は「これぐらいで見せに行っていいのだろうか」とか、「何もなければ軽くあしらわれないだろうか」とかさまざまな感情があり、医療機関を受診するにはハードルがあるのが現実である。 したがって、がんを疑う所見がなくても本書をはじめとする資料を見せて、「胃がんや大腸がんは内視鏡でみないとわからない。しかし、口腔がんは口の中を簡単に見ただけで、少なくとも、専門機関で見てもらうべきかそうではないかぐらいはわかるので、心配な時は遠慮なく来てください」と歯科受診を促したい。 医科の先生方は自分の専門分野以外は他の医師に任せる。疾患の多さは果てしなく、循環器を専門とする先生が眼科や皮膚科領域まで責任をもつことは不可能である。口腔内の病変、特に口腔がんはだれが発見するのだろうか。耳鼻咽喉科以外の医科の先生方に口腔内の病変を適切に診察させるのは難しいと考える。やはり、歯科医師の力は大きいだろう。 口腔粘膜疾患を診察するにあたっては、正常な口腔粘膜を理解し、異常な粘膜が正常な粘膜とどのように違うのかを診ることが大切である。また、粘膜下で疾患がどのように拡がっているのかをイメージできると、患者への説明がわかりやすいものになる。そして、患者の主訴に対して、一次医療機関(一般の歯科診療所)で観察が可能な病的意義の少ない粘膜の変化(正常な組織を含める)、一次医療機関で治療が可能な粘膜疾患、二次医療機関に紹介したほうが良いものを選別し、経過観察や治療にスムーズに導きたい。はじめに

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