天然歯を活かしたインプラント治療
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が8)、これは抜歯によって歯根周囲の付着器官である束状骨-歯根膜複合体(BB-PDL複合体)(図1)も消失してしまうことから惹起されると考えられている9)。もともと歯槽骨の厚みが薄い上顎前歯部の唇側歯槽骨は、BB-PDL複合体消失の影響を強く受け、歯根膜からの血液供給も絶たれることにより抜歯後に大きく吸収してしまう。唇側の骨吸収は、唇側歯肉の退縮や歯間乳頭の喪失を引き起こし、上顎前歯部のインプラント治療において審美的な予後に致命的な影響を与えることになる10)(図2)。 この唇側の骨吸収を補償するために、これまでもさまざまな手技や材料を用いた歯槽堤温存療法が考案されてきたが、抜歯後の歯槽骨を完全に保存できる手法は存在しない11、12)。また、抜歯窩への即時インプラント埋入を行う際にも、術後の唇側骨吸収を抑制し唇側歯肉の退縮を最小限に抑えるためのさまざまな手法が提案されているが、抜歯前の唇側組織の状態を完全に維持できる手法はいまだ存在しないといえる13、14)。このような理由で進行していく唇側歯槽堤の豊隆の減少は、結合組織の移植を行うことで見かけ上補うことは可能であり、あらかじ はじめに 近年、審美的な結果が求められる上顎前歯部のインプラント治療を行う際に、抜歯後の唇側組織の吸収を防ぐため、歯根の唇側の一部分を抜歯窩に意図的に残置させ、その口蓋側にインプラントを即時埋入するSocket Shield Technique(SST)が提案され、長期的な審美性の維持の面で良好な結果が報告されている1~3)。しかし一方で、術後感染などの合併症も多く報告されており、完全に確立された術式とは言い難い4、5)。また、残置させた歯根とインプラントの間隙に骨が十分に形成されるかは不明で、埋入したインプラント周囲の完全なオッセオインテグレーションの達成に疑問が残る1、6、7)。そこで本稿では、SSTの現在の到達点と疑問点を整理し、どのように応用していけばよいか解説していきたい。略歴1992年 岡山大学歯学部卒業1996年 ナディアパークデンタルクリニック開業    EAO Certificate in Implant-based Therapy図1 束状骨-歯根膜複合体(BB-PDL複合体)。図2-a、b ₁部インプラント補綴後、唇側の骨吸収が生じたため、唇側歯肉が退縮しアバッ34トメントが露出している。ab 抜歯後に歯槽骨が吸収することはよく知られている飯田吉郎Yoshiro Iida愛知県開業Socket Shield Technique、Myth or Reality?-SSTは審美インプラントの最終兵器となりうるか?-抜歯後の唇側歯槽骨の吸収への対応シンポジウム1

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