どう診る? どう育てる? 子どもたちの歯列と口腔機能
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123117 小児矯正は何を目的として,何を治療のゴールとするのか? この質問の答えは先生によって違うと思います.「永久歯を抜かないことを目的に歯列拡大を主体にする」「小児矯正で治療を終了させるために小児期に理想の歯列を完成させる」「永久歯を抜歯するのなら小児矯正をする必要はない」「早期に治療しても後戻りするから小児矯正は行わない」など,さまざまな意見があります. そんななか,筆者らは小児矯正を「将来的な本格矯正を見据えた治療」と位置づけています.小児期に呼吸,舌,咀嚼機能などの顎口腔機能を回復し,顎骨形態を健全化することで口腔環境を整備し,不正咬合をできるだけ予防することを目的としていま 小児期にみられる叢生,機能性上顎前突,前歯部開咬,機能性の前歯反対咬合では,上顎骨の成長が抑制されています(図1).上顎骨の成長抑制によって口蓋が狭窄すると舌・咀嚼筋機能異常が生じるため舌骨は後下方に位置し,下顎骨の後下方への成長が促進され,咬合に悪影響を及ぼします(図2).一方,食いしばり,歯ぎしりなどの咀嚼筋の異常機能が習慣化されている口腔環境では,その機能過多ゆえにす.その結果,正常咬合を獲得し小児矯正で終了するケースも少なくありませんが,本格矯正が必要となった場合でも,治療期間が短く,痛みの少ない矯正歯科治療が可能になり,治療後の安定性も向上します.早期に口腔環境を整備することができれば,①永久歯を抜歯するリスクを減らす,②歯槽骨内に歯を収めて安定した口腔環境をつくる,③機能性,審美性を高めるために前歯の位置を改善する,④第一大臼歯や第二大臼歯の萌出障害を予防する,といったことが可能となります.ただし,個人差や成長の限界があるため,必要に応じて小臼歯の便宜抜歯を選択します.◦顎関節に問題がなく下顎位が安定する.◦臼歯咬合が安定し,適切なアンテリアガイダンスが確立されている. このような長期安定した口腔環境を整えるためには,歯列顎骨形態だけを評価するのではなく,口腔機能検査を充実させ,口腔機能を評価する必要があります.正しい機能が身につくことで,健康的で美しい口元を獲得することができるからです.上顎骨側方成長と下顎骨前方成長が抑制されてしまい,過蓋咬合となります1(図3).このような下顎骨成長の問題が生じている口腔環境では,舌・咀嚼筋の機能異常によって,さらに不正咬合が重症化するといった負のサイクルが起きています(図4).不正咬合を予防するためには,この負のサイクルを遮断する必要があります.Chapter1 子どもたちの健全な発育を促す予防型の矯正治療1小児矯正の役割小児矯正治療のゴールは? 小児期の矯正治療のゴールとしては,鼻呼吸がしやすい気道・舌房を確保する,舌と咀嚼筋活動を回復させることが最優先と考えています.つまり,正しく飲み込め,左右どちらの臼歯でもしっかり噛めて,前歯でものを噛み切れる口腔環境をつくるということです.そのためには,以下の条件が求められます.◦上下顎骨がしっかり発育する.◦歯槽骨内に歯が収まっている.歯列不正の成り立ちを理解する

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