サポーティブ・インプラント・セラピー
4/9

90   ₂.Step₂またはStep₃に移行する判断基準 インプラント周囲粘膜炎のほとんどは,Step1の治療で治癒する. Step1の処置が終わり,再評価検査でBOPが陰性になれば,経過観察とし,定期的なリコールに移行する.BOPまたは排膿が消失しないようであれば,Step2またはStep3に移行する.CASE ペリオブラシを用いたインプラント周囲粘膜炎の治療 56歳の女性.下顎右側小臼歯および第一大臼歯部にインプラントを₃本埋入し,翌年上部構造を装着後,良好に経過していたが,₂年後のインプラント周囲組織検査時にBOPが認められるようになった(-①・a).デンタルエックス線画像(-①・b)でインプラント周囲の骨吸収は認められなかったため,インプラント周囲粘膜炎と診断した.プロービング深さは₃mm以下であったが,粘膜縁上にプラークの付着が認められた(-①・c). まず,ルシェロ I-20を用いてインプラント周囲粘膜辺縁のプラークコントロールを行うよう指導した結果,縁上プラークはほぼ除去できるようになったが,BOPは消失しなかった.そこで,さらにペリオブラシを用いて,患者自身によるセルフケアとしてインプラント周囲粘膜縁下のプラークを除去する方法を指導した(-①・d). ₁カ月後の来院時にインプラント周囲のプロービングを行ったところ,BOPはみられなくなった(-①・e).その後9年以上経過しているが,インプラント周囲粘膜炎の再発はみられず,インプラント周囲骨の吸収もみられない(-①・f). 本症例から,ペリオブラシは患者自身によるインプラント辺縁周囲溝のプラークコントロールに有用なツールであり,インプラント周囲粘膜炎の治療に有効である可能性が示唆された. Step₁ 上部構造を除去しない非外科的治療Ⅲ₁.Step₁で行う治療内容 Step1においては,粘膜縁上(ZoneA)にプラークが付着していれば,患者に清掃法を指導する.天然歯が残存する場合には,インプラントだけではなく,口腔全体を清掃する方法を指導する. BOPまたは排膿がみられる場合には,粘膜縁下のZoneBの清掃を行う.使用する器具は,主にフロスとサブソニックブラシである.歯周治療では口腔清掃状態が確立されてから歯肉縁下のスケーリング・ルートプレーニングを行うが,インプラントでは,ZoneAとZoneBの清掃を,同時に行うことも多い. 天然歯の歯周膿瘍に対しては,ポケット洗浄のみを行い,スケーリング・ルートプレーニングは行わない.これは,急性期に行うと,脱灰して骨基質は吸収しているものの,セメント質に埋入されているシャーピー線維を損傷させてしまうリスクがあるためである.インプラントでは,結合組織性の付着はないため,そのようなリスクを考慮する必要がない.また,インプラント周囲疾患は進行が速いため,粘膜縁下のバイオフィルムも早期に除去しておいたほうがよいと考えられるためである. ZoneCは,粘膜が退縮しているケースを除くと,上部構造を除去しないでアクセスすることは困難であるが,アクセスできる場合には,サブソニックブラシ,ペリオブラシ等を用いて清掃を行う. 排膿がみられる場合には,ZoneBおよびZone Cの清掃後,ペリオクリン歯科用軟膏またはミノサイクリン塩酸塩歯科用軟膏を投与する.₁回の投与で排膿が消退しない場合には,₁週間間隔で,同じ処置を数回繰り返す.

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る