サポーティブ・インプラント・セラピー
2/9

ト周囲疾患に対して積極的に介入するという意味合いを重視して,本書ではSITという用語を用いることとした.12    口腔インプラント治療が普及し始めて数十年が経過し,欠損補綴の選択肢のひとつとして定着してきている.その一方,多くの患者がインプラント周囲疾患に罹患していることが報告され1),インプラント治療において,大きな問題となってきている.インプラント周囲疾患は,炎症が周囲粘膜のみに限局したインプラント周囲粘膜炎と,周囲骨の吸収も伴うインプラント周囲炎に分けられる2). インプラント周囲粘膜炎は,プラークコントロールによって治癒するが,インプラント周囲炎では,まだ確立された治療法はないとされている.しかし,インプラント周囲炎も初期に対応すれば,予想外に改善することもある.インプラント周囲疾患のリスク因子としては,口腔清掃不良が関与していると考えられているが,病因については,まだまだ不明な点も多い.メインテナンスを行っていても,不意にインプラント周囲炎が発症することもある.また,歯周炎よりも進行が速いため,処置を先延ばしにしてしまうと,あっという間に重症化してしまうこともある. 近年,インプラントを長期にわたって維持し,機能させるための治療として,サポーティブ・インプラント・セラピー(supportive implant therapy:SIT)という用語が用いられるようになってきている3).インプラント周囲軟組織に炎症がなく安定している場合には,"メインテナンス"によって維持できるが,インプラント周囲疾患が発症した場合には,より積極的に介入する支持療法(supportive therapy)が必要となる4).メインテナンスとSITは類義語として扱われることも多いが,インプラン₂.SITの処置内容 SITで行う処置内容については,口腔清掃指導とPMTC(professional mechanical tooth cleaning,専門的機械的歯面清掃)のみで,薬物療法は含まれないとする論文がある一方5),外科的な処置までも含むものもあり6),明確には定義されてはいない. 本書では,高額な装置や特殊な器具がなくても,一般の歯科医院でも対応することができる,インプラント周囲粘膜炎から比較的予後が良好な軽度のインプラント周囲炎に対する処置までを主な対象とすることとした. ₃.他院で入れたインプラント インプラントは,そのインプラント治療を行った医院でメインテナンスを行うことが理想ではあるが,長期にわたって経過したケースでは,患者自身の転居や退職,また医院の閉院等,さまざまな理由でそれができなくなることも多くなってきた.つまり,他院でインプラントを入れた患者が来院する機会が多くなってきており,これからも増えていくと予想される.インプラント治療を行っていない医院は,インプラントが入っているというだけで,戸惑いを感じるかもしれない.また,インプラント治療を行っている医院でも,他院で入れたインプラントが,たまたま自院のインプラントと同じブランドであれば対応しやすいが,異なるブランドの場合には,不安を感じるであろう.それは,ブランドによってドライバーなどの器材が異なることや,特にセメント固定の場合,何か問題が生じた場合に,上部構造を容易に除去ができない可能性があるためである.₄.上部構造を除去しないSIT SITを行う上で,上部構造を術者が除去できるこ1.メインテナンスからサポーティブ・インプラント・セラピー(SIT)へ序 論

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る