矯正YEARBOOK2023
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愛知県開業 みゆき矯正歯科連絡先:〒448‐0821 愛知県刈谷市御幸町5‐408Deep Bite Case of Growing Patient Treated on the Base of Alexander discipline初診時:10歳5か月,女児主訴:出っ歯,前歯の内側がときどき痛む.現病歴:指しゃぶりが2〜8歳にあった.乳歯列期より出っ歯であった.家族歴:両親にとくに目立った不正咬合はない.二人姉妹の妹で,姉は出っ歯と正中離開で矯正治療を受けたことがある.顔貌所見:上口唇の突出と下顎の後退感があるコンベックスタイプ.上下口唇の閉鎖が困難で上顎左右中切歯の先端が通常露呈している(図1a~d).口腔内所見:上顎前歯部に離開があり,著しい唇側傾斜がみられる.上下の歯列には深いスピー湾曲がみられ,overjet 11mmと上顎前突と上顎前歯の唇側傾斜が著しいため,overbiteが4mmながら下顎前歯の噛み込みによる圧痕が上顎切歯乳頭部に認められる過蓋咬合となっている(図1e~j).セファログラム所見:SNA 81.0°に対して SNB 73.5°と下顎遠心咬合を呈し,ANB 7.5°と骨格性Ⅱ級である.GoA 121.5°に対してSNMP 39.0°と大きく,過蓋咬合でありながら下顎下縁平面の時計回り回転が伺われる(図1k).診断:上顎中切歯の著しい唇側傾斜と下顎遠心咬合をともなうAngleⅡ級1類,上顎前突,過蓋咬合Shuji Kamiya特集 成長期の過蓋咬合を考える 第Ⅰ部 スタディグループによる症例提示臨床家のための矯正YEARBOOK 2023神谷修治020 アレキサンダー先生は2022年4月に惜しまれながらご逝去された.先生の数々の偉業は,われわれアレキサンダー研究会会員の臨床に多大な影響を遺された.そのうちのひとつで先生の遺作であり,われわれ研究会によって翻訳された『アレキサンダーの矯正臨床シリーズ第3巻 アレキサンダーディシプリン 非典型症例と難症例』の中で「過蓋咬合」を取り上げている. 過蓋咬合の数量的定義は不明確だが,臨床的には overbiteが約4mm以上,または下顎前歯の3分の2以上が上顎前歯に被蓋されている状態をさすことが多い.外観上,他の不正咬合よりも目立ちにくい場合もあり,被蓋の量も成長とともに減少する傾向2もあって,過蓋咬合は他の不正咬合に比べて主訴となりにくく,学校健診などで指摘されても気になっていないケースも多い.しかし,同時に下顎前歯が上顎歯肉に過度に接触して起こる外傷や臼歯部低位に起因する下顎の遠心位をともなうことも多いために,二次的に起こる顎関節機能障害を合併していることもある.また,初診時低年齢であれば,目立った症状がなくても将来的にその適応力・柔軟性の低下する思春期以降に顎関節機能障害を発症することも懸念される.近年においては,インターネットの普及により,顎関節機能障害の存在は急速に周知されてきているように感じられる. 今回,当院で治療した過蓋咬合の症例を供覧し,検討させていただくことにする.[アレキサンダー研究会]はじめに症例Alexander disciplineの原則に基づいて治療した成長期の過蓋咬合症例

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